柔らかいごはんつぶの味

ひかりに透けると、触れたくなる

 

背の高さに、とくに不満を持ったことはない
寧ろ、武器がよく似合うであろうから、お気に入り
だけど、
手を伸ばせば何だって届いてしまうことを知っているから、
涼しい顔をして、好きなものを最初に食べる
何にしろ、一口めって、いちばん美味しいよね

いろんな食べ物を、一口ずつだけなら、
ずっと食べ続けていられそう
なるべく大きな回転テーブルを満ち満ちにしようね
でもあれって、タイミングを窺わなくちゃいけないから
息の仕方を忘れそうで、ちょっとだけ、こわいのね
せーので回そうか
回しすぎて喧嘩にならないように、
ほんの数センチずつの約束で

あ〜
緊張が解れた頃合いを見て、
ショートケーキを丸ごと口に突っ込んであげたいよ〜
問答無用の手掴みで
だから、おねがい
茶店では向かいに座ってね

 

却説

 

柔らかい髪色が似合う女の子に生まれたかった、

思ったことはないけれど
一度なってみたい、

思うのね
追いかけたってわたしはあんたにはなれないから

あの子は言っていたけれど
わたしはずっと、
ずっとね、
蒸した栗色をしたきみの髪の毛が
ひかりを吸収するのを斜め後ろから見ていたのだよ
わたしの瞳は日焼けしやすいから
ときどき、目を逸らしてしまったこと、
謝れないまま大人になったな

 

あの子はわたしに当然なれないし
わたしもあの子に当然なれない
そんな公式は世の常だけど
あの子だってわたし「みたいに」はなれるし
わたしだってあの子「みたいに」はなれるのだよ
なってみたらいいのよね、一度くらい
そして、諦観しましょう
教えてくれるよ、きみ自身のこと

 

憧れは執着で、
好意よりもっと手軽だから恐ろしい

憧憬に殺されて、
スーパーマーケットのBGM、
お惣菜コーナーで凍死しようと佇んだ
売り場地図のフォトグラフィックメモリー

却説

 

ねえ、わんちゃん
わたしが投げた骨を
いつまで追い掛けるつもりなのですか
そんなに遠くまでいっていないはずでしょう
もう、ないのよ
すぐに風化してしまうものなのよ
わたしが投げた骨だけを
いつまでも追い掛けなくたっていいのですよ
転がっている他の骨を
あたかもあの時投げた骨かのように
咥えてきてもよかったのよ
わたしが投げた骨しか
咥えられなくなってしまったのね
愛の力?
いいえ、

グッピーが浮かんでいましたね
水槽に
わたしは怖くって
とてもじゃないけど近づけず
わんちゃん、
きみを走らせたね
マジックリーフの上で眠っていたよ、
だいじょうぶ
そう教えてくれたけど
シャッターを切らない限り
全てのものは改竄できるのね
でも、
あんなにも真っ直ぐな目を
はじめて見たから
それでよかった

大船のセブンイレブン近くの駐車場で聴いた
鼓膜を弾くみたいな大きな銃声は
誰かの死をわたしの記憶に刻んで
知らない誰かが亡くなったことだけを知った
死はいつだって生きている側のものだから
なるべく体温を確かめ合っていようね

却説

 

ひかりに透かして、触れる口実をつくらないで